顔面神経麻痺とは、顔の神経が麻痺する病気で、思った通りに動かせなくなるのが特徴です。
放置すると後遺症として残ってしまうこともあり、早めの対処が必要ですが、前兆や初期症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、顔面神経麻痺の初期症状や原因、治療方法を紹介します。
顔の動かしにくさを感じている方や、病気について詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺とは、顔の運動を司る神経の損傷によって、筋肉の一部が麻痺する病気です。
中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺に分けられ、脳神経外科では中枢性も末梢性も両方の治療を行います。
中枢性顔面神経麻痺の原因となる病気はさまざまで、それらの病気によって脳が損傷すると、神経障害が生じます。
大脳皮質からの神経線維は顔の下半分に影響を与えるため、額や目には影響を及ぼさず、主に顔の下半分に麻痺が出るのが一般的です。
末梢性顔面神経麻痺は、顔が全体的に麻痺するのが特徴で、額や目の眼輪筋にも影響を及ぼします。
原因となっている病気によって治療方法は異なりますが、早期診断と迅速な治療を行うことが重要となるため、症状を感じたら早めに医療機関を受診することをおすすめします。
顔面神経麻痺の前兆や初期症状
顔面神経麻痺は前兆や初期症状を知り、早めに医療機関を受診することが重要です。
ここからは、顔面神経麻痺の前兆や初期症状を紹介します。
耳の後ろ・耳の下に痛みを感じる
顔面神経麻痺の前兆として一般的なのが、耳の後ろや耳の下に痛みを感じることです。
顔面神経が通っている側頭骨内で炎症や浮腫が起こることで痛みが生じますが、その程度によって痛みの強さは異なります。
顔面神経麻痺の症状が現れる数日前から耳の後ろや耳の下に痛みを感じることが多く、その痛みは徐々に強くなる場合もあります。
このような前兆が感じられたら、すぐに脳神経外科を受診してください。
目がうまく閉じられない
末梢性顔面神経麻痺の場合、眼輪筋が麻痺するため目がうまく閉じられないことがあります。
初期段階では、まばたきがしづらい、完全に目を閉じられないなどの症状が出て、日常生活に支障をきたします。
目が閉じられないと、瞳を保護する機能が低下して角膜が傷つきやすくなります。
目が乾燥する
眼輪筋の麻痺によって目がうまく閉じられなくなると、瞳が乾燥しやすくなります。
通常はまばたきによって涙を瞳の表面に広げて潤す役割をしていることや、顔面神経が涙腺の機能にも関与していることから、涙の分泌量が低下することがあります。
そうなると、目が乾燥して傷つきやすくなるのが特徴です。
食べ物がこぼれる
顔面神経麻痺が起こると、初期症状として現れるのが口輪筋や頬筋などの顔面筋が麻痺するため、食事中に食べ物や飲み物をうまく飲めず、口からこぼれてしまう症状です。
顔面筋が麻痺すると、口角が下がったり口を閉じられなくなったりすることもあり、唾液のコントロールが難しくなるケースもあります。
そうなると、唾液が口から漏れてしまうため、日常生活にも支障をきたします。
味覚異常
顔面神経には、知覚を伝える神経線維が含まれているため、麻痺することで舌の味覚を感じる部分に影響を及ぼすことがあります。
特に変化が起こりやすいのは甘味や塩味で、食べているものの味が変だと感じることがあります。
音が響く
顔面神経麻痺を患うと、大きな音から耳を保護する役割を担う筋肉に異常が現れることがあります。
その結果、聴覚過敏や耳鳴りが現れ、音がいつまでも響いたり、異常なほど大きく聞こえたりするのが特徴です。
めまい
顔面神経は内耳の近くを通っているため、内耳の平衡感覚に影響を与え、めまいが現れることがあります。
めまいの程度は、軽度のふらつきから激しく回転するようなものまで患者さんによってさまざまで、麻痺の症状が出る前に現れることもあります。
めまいには、さまざまな病気が隠れている可能性も否定できないため、症状を感じたらすぐに脳神経外科を受診してください。
顔面神経麻痺の原因
顔面神経麻痺にはさまざまな原因があります。
ここでは、顔面神経麻痺の原因について詳しく紹介します。
ウイルス
顔面神経麻痺の一般的な原因はウイルスで、特に単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹ウイルスが主な原因とされています。
ウイルスが顔面神経に潜伏している状態で免疫力が低下すると、神経炎を起こし顔面神経麻痺につながります。
ベル麻痺は単純ヘルペスが関与している顔面神経麻痺で、全体の約60%を占め、ハント症候群は水痘・帯状疱疹ウイルスが関与しており、約20%を占めるのが特徴です。
ウイルス性の顔面神経麻痺は、疲労、ストレスなどの免疫力が低下したタイミングで発症しやすいため、日頃からストレス管理や疲労を溜めないなどの対策が必須です。
発症から3日以内に治療を開始する必要があり、適切な初期治療を早期に行えば8割程度の方が回復します。
脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が閉塞することで脳組織が酸素不足になって機能が低下する病気です。
脳梗塞による顔面神経麻痺は、中枢性顔面神経痛に分類されます。末梢性顔面神経麻痺とは違い顔の上半分の動きは保たれ、下半分が麻痺することが一般的です。
主に口角が麻痺するため、口から食べ物がこぼれたり、唾液がこぼれたりする症状が現れます。
他の神経症状である手足の麻痺や、言語障害、意識障害などを伴うことも多く、それらが診断の重要な鑑別点にもなります。
脳梗塞による顔面神経痛は、生命に関わる可能性がある重篤な状態と判断されるため、症状が現れた場合はすぐに脳神経外科を受診することが重要です。
治療は脳梗塞の対応を行い、その後損傷部位や程度によってリハビリテーションを行うことになります。
脳腫瘍
脳腫瘍による顔面神経麻痺は、腫瘍が顔面神経を直接圧迫していたり、浸潤していたりすることで発生します。
特に顔面神経鞘腫は、顔面神経に発生します。内耳道から発生して成長する過程で顔面神経に影響を与えるのが特徴です。
初期症状として聴力の低下やめまいなどが現れ、腫瘍が大きくなるにつれて顔面神経麻痺の症状が酷くなります。
他にも、髄膜腫や転移性脳腫瘍も発生部位によっては顔面神経麻痺の原因になることがあります。
脳出血
脳出血は、脳内の血管が破れて出血することで発症する病気です。
脳組織を圧迫することにより、顔面神経麻痺を引き起こす原因になります。
特に、脳幹部や小脳に近い位置で出血すると顔面神経麻痺の原因になることが多く、急な症状の変化が特徴であることから、初期対応が肝心です。
出血量が多い場合は外科的な処置によって血腫を除去し、出血を止血する必要があり、その後はリハビリテーションが必要になります。
外傷
交通事故やスポーツ中の衝突などによって、頭部や顔面が損傷すると、顔面神経を傷つけることがあり、外傷が原因で顔面神経麻痺を引き起こすケースもあります。
特に、頭蓋骨や神経外傷による発症の場合は、ステロイドの投与や手術によって神経の再構築を行う必要があります。
また、損傷直後に発症する顔面神経麻痺は即時性麻痺、損傷から48~72時間以降に発生するものを遅発性麻痺と呼びます。
遅発性麻痺は、外傷によって浮腫や血種が起こることが原因と考えられ、損傷の程度や麻痺の発生時期によって治療内容が異なります。
顔面神経麻痺の治療方法
顔面神経麻痺の治療として、急性期(発生後1週間以内)は、主にステロイド薬と抗ウイルス薬による薬物療法が行われます。
神経の炎症や浮腫を抑えつつ、ウイルスの増殖を抑える治療ですが、重症な患者さんの場合は入院治療が必要になることもあります。
発症から2週間以内の症例では、顔面神経減圧術と呼ばれる手術が検討されます。浮腫によって圧迫されている神経の負担を軽くする手術です。
後遺症が残っている場合には、形成外科的な手術が検討され、同時にリハビリテーションを行うことになります。
顔面神経麻痺の予防方法と日常生活での注意
顔面神経麻痺を予防するには、日常生活での注意が必要です。
ここからは、顔面神経麻痺の予防法と日常生活での注意点を紹介します。
ストレス管理
ストレスや疲労は免疫力を低下させてウイルスを活性化させる可能性があるため、日常的にストレス管理を行うことが重要です。
ストレス管理としては、趣味の時間をもつ、適度な運動を行う、瞑想やヨガを行うなど、人によって解消方法は異なります。
自分に合ったストレス解消方法を見つけ、定期的に時間を確保してそれらを実践するようにしましょう。
また、睡眠不足は免疫機能を低下させるため、規則正しい生活リズムを維持し、就寝前はリラックスできる環境を整えてください。
ストレスや疲労を自覚している方は、無理をせずにゆっくり休み、心身のリフレッシュを心がけることで、顔面神経麻痺を予防できます。
バランスの取れた食生活
暴飲暴食や、偏った食生活は免疫力を低下させる可能性があるため、バランスの取れた食生活と適切な水分補給をしっかりするようにしましょう。
免疫力を高める栄養素は以下が挙げられます。
- ビタミンC
- ビタミンE
- ビタミンB群
- 亜鉛 など
果物、野菜、魚類、豆類などを積極的に取り入れつつ、バランスのよい食事を心がけるようにすると、免疫力向上を図れます。
さらに、水分補給は体内の毒素を排出して神経系の健康を維持する働きが期待できるため、適切な水分をしっかり補給することも重要です。
1日に1.5~2Lの水を飲むよう心がけ、アルコールやカフェインの過剰摂取は控えましょう。
適度な運動
免疫力を向上させるには、適度な運動によって全身の血液循環を促進することも重要です。
ウォーキング、ジョギング、水泳など自分が取り入れやすい運動を週に3~4日、30分ほど行うとよいでしょう。
さらに、顔面神経は寒冷刺激に弱いため、特に冬場の体温管理は重要です。
首回りや顔を冷やしすぎないよう気をつけ、入浴で身体を温める、ストールやマフラーを巻くなどして体温調節を行いましょう。
運動が苦手な方も、15分程度のウォーキングからはじめるなど、自分が継続しやすい運動を取り入れてみてください。
定期的な健康チェック
顔面神経麻痺を予防するためには、病気の早期発見も重要です。
年に1度の健康診断を受けて全身状態をしっかりチェックしましょう。
特に、糖尿病や高血圧などの基礎疾患を患っている方は、より頻繁な健康チェックが欠かせません。
また、顔面神経麻痺は発症から3日以内に治療を開始する必要があるため、顔に違和感があると思ったらすぐに脳神経外科を受診してください。
日常的な健康管理と定期的なチェックによって、顔面神経麻痺の予防と早期発見を心がけましょう。
過度の飲酒や喫煙を避ける
アルコールを過剰摂取することは、免疫機能を低下させてウイルスの再活性化を招く恐れがあります。
顔面神経麻痺の予防を心がけるなら、過度の飲酒は避ける必要があるでしょう。
また、過度の飲酒は高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めるうえに、これらの生活習慣病は顔面神経麻痺の発症リスクを増加させる原因にもなります。
喫煙は、脳卒中やがんなどのさまざまな疾患のリスクを高めるとして知られています。
疾患によって直接的、または間接的に顔面神経麻痺のリスクを増加させる恐れがあるため、できるかぎり禁煙をおすすめします。
過度の飲酒や喫煙を控えることは、顔面神経麻痺の予防に貢献するだけではなく、全身の健康維持にも関わります。
健康的な生活を送るためにも、過度な飲酒と喫煙は避けるようにしましょう。
まとめ
顔面神経麻痺には、いくつかの前兆や初期症状があるため、顔面やその他の部位に違和感を覚えたらすぐに脳神経外科を受診してください。
また、ウイルスによる発症の場合は、免疫力を高めるよう日常生活に気を配ることで、顔面神経麻痺を予防できます。
神奈川県相模原市の脳神経外科 福島孝徳記念クリニックでは、さまざまな症例に対して適切な治療を提案させていただきます。
セカンドオピニオンも実施しているため、症状がすでに出ている方は、早めの受診を検討することをおすすめします。