脳幹部海綿状血管腫
海綿状血管腫という疾患は、大脳、小脳、脳幹とさまざまな部位に発生します。腫瘍が存在するだけでは、日常的に困るような症状がありません。この血管腫から出血し、周囲の脳組織を圧迫した際に、さまざまな神経症状が出現します。その症状としては、頭痛、嘔気、痙攣発作、運動麻痺、感覚障害、ものが2重に見える、顔面神経麻痺、嚥下障害、フラつくなどがあります。
海綿状血管腫が発生する脳の部位の中で、手術が最も難しいとされる脳幹部の海綿状血管腫について説明致します。脳幹とは、『中脳、橋、延髄』と3つの部位に分かれていて、意識や呼吸、心臓の動き、脳神経の中心となる非常に重要な臓器です。この部位に海綿状血管腫が存在するだけでは、特に症状がありませんが、一度出血を起こすと、さまざまな症状をきたします。神経症状を自覚した際は、病院を受診し頭部CT検査を行い、出血したかどうかを診断します。
海綿状血管腫からの出血を認めた際は、入院加療となりますが、リハビリを行い、時間経過とともに神経症状は改善します。神経症状が改善し、ほぼ症状のない状態に戻れば、早期の手術を必要としない場合が多いですが、短期間に出血を繰り返し、神経症状が徐々に悪化していく場合には、緊急的な手術が必要になることがあります。
代表症例を示します。
20代の女性の方
20代の女性の方で、頭痛症状で半年前に脳幹部の海綿状血管腫の診断を受け、頭痛症状のみであったため、経過観察となりました。その後、6ヶ月経過し、再度頭痛症状が繰り返し出現し、その度に脳神経外科病院受診され、経過観察となっていましたが、右上肢と下肢の麻痺症状が出現し、地元の病院に入院され当院へ手術目的に転院されました。入院後、症状が徐々に悪化し、右半身は完全麻痺で、意識状態も低下認め、緊急手術となりました。
下の写真は、頭部CT検査の写真ですが、黄矢印で示した白い部位(出血)が、徐々に増大しているのが、はっきりとわかります。
この部位の手術は本来、黄矢印の方向から腫瘍にアプローチしますが、腫瘍を確認できる角度に限界があると判断し、赤矢印の方向から手術する方針としました。
下図は、実際の手術の写真です。
下写真は、術後の頭部CTとMRI検査です。左写真の黄丸で囲まれた部位を温存することで、聴力を温存できました。真ん中のCT検査では、術前に認めた白い部位(出血)はほぼ消失しており、右の写真のMRI検査では、血管腫が全摘出できているのを確認しております。
術後、麻痺症状も改善し、通常の日常生活に戻られております。